2018年12月20日木曜日

「ゆめみるけんり」vol.3

★在庫僅少です!ゆめみるけんりの手元在庫も完売しています。
通販では、書肆鯖さん;リアル店舗ではがたんごとんさん(小樽)、レティシア書房さん(京都)に在庫があると伺っています。お早めにご入手ください。(2021/9追記)

表紙デザイン:つぐみ
Cover designed by Tsugumi

表紙イメージができました!今回も、つぐみさんにお願いしました。
最新情報はこの記事を更新する形でお知らせします。

「ゆめみるけんり」vol.3(2018年11月発売)
特集「睡眠主義」

コンテンツ:今号の目次。
メンバーズ:今号に参加した人たち。

・電子書籍版:Kindle Storeにて販売中です。300円。一部、書籍版のみのコンテンツがあります。
・紙版:2018年12月刊行。予価:1200円。取り扱い書店さんにつきましては【入手方法】のページを更新していきます。

Our zine "yumemirukenri 03" is now on sale. The issue is: Sleep-ism.
E-book can be purchased on Amazon's Kindle Store for approx. $3.00.
Printed ver. is available for ¥1200. See the page "How to purchase?" for the list of book stores.


〈vol.3によせて〉

ひそかに、ささやきを交わすように、私たちの「ねむり」について語りはじめようとおもいます。vol.3のテーマを「睡眠主義/Sleep-ism」となづけました。睡眠と、イズム?
 ヴァージニア・ウルフは、女性が作家になるためには〈五百ポンドの年収〉と〈自分一人の部屋〉が必要だ。といいました。女性が個室を持てなかった時代ですからウルフは女性に限定した話をしていますが、これは当然、一般的になにか書きものをするためには(性を問わず)独りぼっちになれる場所が必要だということになります。
 いま、社会のなかで、私たちにとっての〈自分一人の部屋〉はどこにあるのでしょう。カラオケ? トイレ? ヘッドホンの中でしょうか? 個人的ないとなみが可能になるためには、無駄がなくてはいけないのだとおもいます。カラオケも、トイレも、ヘッドホンも、それは用途の限定された「〜のため」に用意された場所であり、〈すること〉に満ちています。そこでは歌い、漫画を読むことはできても、ぼんやりと窓の外をみること、愛の感情をいだくこと、宇宙や世界について夢をめぐらせることは困難です。
 それでも夢は、ねむりは——私にとっての〈自分一人の部屋〉であったし、これからもありつづけます。〈すること〉への私的な抵抗として、〈しないこと〉としてのねむりを、そぐわなさを顧みず「主義」として試みに打ちだしてみることにしました。
 ねむり——そこは誰にも奪われてはならないはずの領域ですが、現代の生活において睡眠は、例えば仕事に奪われます。不安に奪われます。漠然とした「眠れなさ」もありますし、いつまでも起きていようとする欲望に身を委ねることもあります。別の観点では、今後もし子育てをすることになれば愛おしい子どもに睡眠を奪われるということもあり得るでしょう(チェーホフは「ねむい」という短篇を残しました)。
 眠れなくてもいい、しかしわたしには「ねむり」へのけんりがあるということ。それが、ひょっとしたら〈すること〉の社会のなかで、〈しない〉ための勇気をくれるかもしれません。
 すべての寝坊と、寝ぐせと、うたた寝のための〈睡眠主義〉を。

#

Intimately, as if we exchange whispers, we are beginning to talk about sleep. The vol.3 of yumemirukenri is entitled: Sleep-ism. Sleep-plus-ism?

Virginia Woolf has once told that it is necessary for a woman who wishes to be a writer to have the earning of 500 pounds per a year and "a room of one's own." It is natural that Woolf has focused the argument only on a woman, for she wrote in a time when there was no private space especially for women. But, of course, it can generally be said that anyone (regardless of his/her sexual identity) needs such money and a room to be independent, or to be alone.

And now, looking around yourself, where can you find "a room for your own?" - In a karaoke room? In toilet? Or in a headphone? For every personal act, I assume, a useless space is needed. Karaoke rooms, toilets or headphones - they all are a place "for" some purposes which has a limited use, and they are filled up with a huge amount of "do"s. Though you can sing or read comics there, it is difficult to observe vacantly outside the window, to hold the feeling of love or to hold dreams about the universe or the world.

However, the dream, the sleep, has been "a room of my own" and it continues to be. By the term "sleep-ism," I tried to put up our sleep as a "not-do", as a personal resistance against "do"s, despite unsuitableness of combination of the words.

Sleep - it's a realm which nothing can deprive of me. However in the modern life, sleep will be taken away by the work for example. Or by uneasiness. Or sometimes we may just feel it's impossible to sleep, or we may resign ourselves to desire to stay awake through the night. From another point of view, if we are going to have a baby, the darling baby may take away sleep from you (as in A.Chekhov's novel "Sleepy").

We may not have to sleep, but I surely have the right to sleep. - That sort of idea may give us a courage "not to do" in the society of "do"s.

Now, bring on the "sleepism" for all the late risers, for all the sleep-tousled hairs and for all the naps.

(工藤/NK)

2018年12月9日日曜日

【イベントレポート】トーク+朗読会(11/30-12/02)

「ゆめみるけんり vol.3」の刊行を記念して、アーティストの田口賢治さんとともに、イベントを行いました。
ご来場、ありがとうございました!

◆anoxia lounge種を蒔く:vol.9「睡眠主義」

12/1(土)13:00開場/13:30開演
会場:上池袋anoxia(豊島区上池袋4-20-1)
出演:ゆめみるけんり(砂漠で生きる、倉畑雄太、藤田瑞都、工藤杳)
企画:加藤裕士(anoxia)、田口賢治

キーフレーズ的に使われた、バシュラールのことば。

少ない人数で火鉢を囲みながら、ゆめみるけんりの事はじめ、今回の特集、「ゆめ」について親密にお話をしました。私たちの側からすれば、vol.3を出したいま、あらためて「ゆめみるけんり」という集まり・媒体について考えなおし、私たちにとっての「ゆめみる」ことについて深く考えるよい機会になりました。
藤田瑞都さんによるペソアの朗読と、一人生活ユニット「砂漠で生きる」から野口さんによる夢の朗読も行われました。



当日参加してくださった福家さんの写真。


◆[ _ ] UNDER BAR vol.11 「ゆめみるけんり」

小雪と大雪の合間に
11/30(金)-12/2(日)19:00-23:00
出演:
11/30(金)藤澤大智/イタリア詩「眠りへの祈り」
12/1(土)s.s.g./オリジナル「Diary in her closet.」など(+田口賢治=木霊)
12/2(日)藤田瑞都/フェルナンド・ペソア「船乗り」(+工藤杳=『不穏の書』から断片の朗読、+田口賢治=木霊)

各日、それぞれが独自の世界をつくり、朗読が行われました。翻訳者、創作者本人が朗読をするという特別な経験。当日は、「ゆめみるけんり vol.3」とともに、限定パンフレット(活版印刷)も販売しました。

限定パンフレットは、ビオトープ170kgミッドナイトブルーに銀色インク(両面4版)で活版印刷したもの。構想については、後ろに掲載した田口さんの「備忘録」をあわせてお読みください。この印刷にあたっては、活版印刷所での印刷工程を見学させていただくなど、とても貴重な経験をさせてもらいました。→別記事
組版・製版・印刷は三木弘志さん(有限会社弘陽)、デザイン・レイアウト・構想は田口さんにお願いしました。予想をはるかに超え、これひとつで凛とした存在感のある作品が完成しました。

限定パンフレット。後日販売予定です。


1日目の藤澤さんは、イタリア思想・文学(専門はジャコモ・レオパルディ)の研究者。今回「ゆめみるけんり」のために翻訳した6人の詩人の詩についての解説を交えながら、原語と日本語訳を朗読してくれました。それぞれの詩・詩人についての深い理解・解釈にもとづいた、演劇的で、魂のふるえるような朗読でした。

藤澤さんの朗読(1日目)
2日目のs.s.g.さんは、オリジナル作品と、最近読んで心にとどまっている詩を2篇(ノラ・ゴムリンガーと文月悠光)朗読してくれました。おだやかでやさしく、心にすっと寄り添うような朗読。

3日目は、「ゆめみるけんり」の1、2号に連載したフェルナンド・ペソアの「船乗り」の後半部分を、訳者の藤田瑞都さんに朗読してもらいました。途中でペソア役(?)として、工藤杳が『不穏の書』から選んだ3つの断章を挿入、さらに田口賢治さんが木霊として参加しました。この場でしか成り立たない朗読になったと思います(のちの大アクシデントも含めて)。

s.s.g.さんの朗読(2日目)

同じく、福家さんの写真。

3日目に参加してくださったMさんが提供してくださった写真。



◇イベントの主催、田口賢治さんの視点から。



きっとイベントはまた行うとおもいますので、今回は残念ながら来場できなかった方も、次はぜひお越しください。今回来場してくださったみなさま、またどこかでお会いしましょう!

(工藤)

2018年11月30日金曜日

活版印刷見学記

2018年11月19日@有限会社弘陽(東京都中央区)

『ゆめみるけんり vol.3』出版記念の朗読イベント[ _ ](under bar)にむけて、活版印刷で限定パンフレットを製作。実際の印刷工程を見学させてもらいました。


限定パンフレットは、『ゆめみるけんり vol.3』掲載の藤澤さん訳イタリア詩、s.s.g.さんのオリジナル短篇、藤田さん訳ペソアの3篇から、田口賢治さんに言葉を拾いあつめ、星座状に(単に星座に似ているだけでなく、実際の星座の配置にできるだけ近い配置で)並べていただいたもの。

星を模した中黒の版と、言葉の版で片面2版、それを両面(北天と南天)で刷っています。

ミッドナイトブルーの紙の上に、銀色インクで言葉を載せる。

とてもうつくしい、凛とした佇まいの作品になりました。

組版・製版・印刷:三木弘志さん(有限会社弘陽)
デザイン・レイアウト・構想:田口賢治さん
コンセプト:ゆめみるけんり

2018年11月27日火曜日

【イベント】トークイベント(12/1)+朗読会(11/30-12/2)のお知らせ

「ゆめみるけんり vol.3」の刊行を記念して、イベントを行います。
まずはアーティストの田口賢治さんといっしょにやる2つのイベントについてお知らせします。

イベントにリピート参加してくださった方には入場料やチャージの割引もご用意する予定です(詳細は当日)。

*田口賢治さんについて
https://kenjitaguchizworks.wordpress.com
https://www.flickr.com/photos/kenji_taguchiz_work



◆anoxia lounge種を蒔く:vol.9「睡眠主義」

12/1(土)13:00開場/13:30開演
会場:上池袋anoxia(豊島区上池袋4-20-1)
出演:ゆめみるけんり(砂漠で生きる、倉畑雄太、藤田瑞都、工藤杳)
企画:加藤裕士(anoxia)、田口賢治

今回の「一本の酒」は「ガタオ」(ポルトガルの緑のワイン)

入場料として1000円いただきます。

ご予約の方優先。ご予約・お問合せは下記まで。
droit.de.yumemir@gmail.com
kenji.taguchi.works@gmail.com
hrsh.kato@gmail.com

上池袋anoxia(豊島区上池袋4-20-1)
https://anoxia2018.hatenablog.com
JR板橋駅から徒歩10分・東武東上線北池袋駅から徒歩5分
(*特に目印等ない場所なので、地図を頼りに探してご来場ください)


こちらは、田口賢治さんと加藤裕士さんが定期的に開催しているトークイベントで、ぼくたちにとっても初となるトークイベントになります。参加するのは、創作をしたり、翻訳をしたり、DTPを担当したり、様々なやり方で「ゆめみるけんり」に関わっている4人です。
「vol.3」のテーマは、「睡眠主義(Sleep-ism)」。また「ゆめみるけんり」という名前からもおわかりのように、ぼくたちには「ゆめをみる」イメージが共有されたものとして存在します。眠ること、ゆめ、ゆめみるけんりとは何か。それはあまりに個人的な領域であるがために、どんな人にもそれぞれの感じ方があることでしょう。
anoxiaでは、ゆめの言語でみなさんとお話しできればと思います。

◆[ _ ] UNDER BAR vol.11 「ゆめみるけんり」

小雪と大雪の合間に

11/30(金)-12/2(日)19:00-23:00
チャージ¥500 + 1drink ¥500 + 朗読投銭
ドレスコード:夢枕
ドレスコードは公演入場時から適用します。扱い方に関しては自由。
土足厳禁
各日19:30- 開演(約30分程度)

出演:
11/30(金)藤澤大智/イタリア詩「眠りへの祈り」
12/1(土)s.s.g./オリジナル「Diary in her closet.」
12/2(日)藤田瑞都・工藤杳/フェルナンド・ペソア「船乗り」
+全日 田口賢治/ガルシア・マルケス『百年の孤独』
公演後BAR time
スダ美容室(東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビル306号室)
東京メトロ銀座一丁目駅10番出口からすぐ
こちらは、銀座でいちばんかっこいいビル、奥野ビルの中にあるスダ美容室(奥野ビル306号室プロジェクト)のなかで行われるバーイベントです。
お酒を飲みつつ、ぼくたちが朗読をします。建物全体の雰囲気も楽しみつつご参加ください。

2018年10月30日火曜日

【お知らせ】店番をします@平井の本棚

総武線平井駅にあたらしくできた本屋さん「平井の本棚」で、ゆめみるけんりメンバーが不定期で店番をさせてもらっています。

12月は、9日(日)と23(日)の予定。

平井ってどこ?

#平井の本棚
https://hirai-shelf.tokyo
twitter: @hirai_hondana

2018年10月27日土曜日

【イベントレポート】Language Beyond(第6回)

杉並区善福寺のスペース「あなたの公-差-転」でブッククラブ「Language Beyond」を隔月開催しています。

第6回は10月21日に開催し、以下の2篇をめぐっておしゃべりしました。

・李承雨『香港パク』
・村田沙耶香『コンビニ人間』

過去のレポートは以下のページから読むことができます。
http://kosaten.org/ja/language-beyond/

◆第7回は、12月16日(日)に行う予定です。
16:30スタート、参加費は無料です。

以下の2篇を読みます:
・レイ・ブラッドベリ『華氏451度』
・多和田葉子『地球にちりばめられて』

このブッククラブでは一つだけの「正しい読み方」を探るのではなく、「参加者のみなさん一人ひとりがどう読んだのか」ということを大切にしています。

参加をお待ちしています!

*あなたの公-差-転:http://kosaten.org/



+++

“Language Beyond”とは?

相手のことばをどうやって理解したらよいでしょうか?自分のことばではない表現をどうやって味わったらよいでしょうか?本のページに固定された文字から、漣のように広がる声、身体に溢れているボディランゲージ、それぞれの記号があり、様々なシグナルが飛んでいますが、その海の中どんどんその本質から離れてしまうという感覚も強いかもしれません。一方、無数のサインに囲まれると無限な意味も読み取れ、ひとつの解釈や視野が絶対足りない世界に生きているということを改めて実感できます。

一言に「ことば(language)」といってもその種類はさまざまです。わたしの身体を取り巻く無数のサイン。そこには無限の意味を読み取ることができ、「ことば」を捉えるにはひとつの解釈・ひとつの視野だけで足りません。一方「ことば」の海のなかで、私たちは時に心のなかに抱えた「この感じ」を言い表すためのことばを見失ってしまうことはないでしょうか。

向こうにある言語。まだ手が届かないところにある言葉。今まで出会っていない、わからない表現だけど、探ってみれば自分の言葉とつながるかもしれません。

世界中のことば
ことばの奥深くにある世界
を通して
相手と自分
の間の
ズレ

見つめて
縮小し、拡大し、
新たな見方
が見えて
新たな表現
が舌先に集まってきます

ブッククラブに参加するには?

・毎回参加者のうち二人が一冊ずつ本を選び、参加者のみなさんはできるだけ事前にその本を読みます。(短編が多くて、図書館から借りたり、本屋さんやネットで買ったりすることができます)
・当日はその本に対する感想、疑問などを多様な観点を持つ参加者と共有し、より深くまで議論できます。このブッククラブでは一つだけの「正しい読み方」を探るのではなく、「参加者のみなさん一人ひとりがどう読んだのか」ということが大切です。
・事前に本が読めなくても参加することが可能ですが、自分なりにその本に向き合ってみるとより積極的に参加できると思います。
・当日進行とその後の記録になるレポートも交代しながら進めていきます!

2018年9月29日土曜日

【イベントレポート】Language Beyond(第5回)

杉並区善福寺のスペース「あなたの公-差-転」でブッククラブ「Language Beyond」を隔月開催しています。

第5回は8月11日に開催し、以下の2篇をめぐっておしゃべりしました。
・ソル・フアナ『知への賛歌—修道女フアナの手紙』(光文社古典新訳文庫)
・アンドレイ・プラトーノフ「不死」(オリジナル翻訳)

レポートは以下のページから読むことができます。
http://kosaten.org/ja/language-beyond/

◆第6回は、10月21日(日)に行う予定です。参加をお待ちしています!
16:30スタート、参加費は無料です。
以下の2篇を読みます:
・李承雨「香港パク」(『香港パク』より)
・村田沙耶香『コンビニ人間』

このブッククラブでは一つだけの「正しい読み方」を探るのではなく、「参加者のみなさん一人ひとりがどう読んだのか」ということを大切にしています。

*あなたの公-差-転:http://kosaten.org/
*FBイベントページ:https://www.facebook.com/events/296586427739007/




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“Language Beyond”とは?

相手のことばをどうやって理解したらよいでしょうか?自分のことばではない表現をどうやって味わったらよいでしょうか?本のページに固定された文字から、漣のように広がる声、身体に溢れているボディランゲージ、それぞれの記号があり、様々なシグナルが飛んでいますが、その海の中どんどんその本質から離れてしまうという感覚も強いかもしれません。一方、無数のサインに囲まれると無限な意味も読み取れ、ひとつの解釈や視野が絶対足りない世界に生きているということを改めて実感できます。

一言に「ことば(language)」といってもその種類はさまざまです。わたしの身体を取り巻く無数のサイン。そこには無限の意味を読み取ることができ、「ことば」を捉えるにはひとつの解釈・ひとつの視野だけで足りません。一方「ことば」の海のなかで、私たちは時に心のなかに抱えた「この感じ」を言い表すためのことばを見失ってしまうことはないでしょうか。

向こうにある言語。まだ手が届かないところにある言葉。今まで出会っていない、わからない表現だけど、探ってみれば自分の言葉とつながるかもしれません。

世界中のことば
ことばの奥深くにある世界
を通して
相手と自分
の間の
ズレ

見つめて
縮小し、拡大し、
新たな見方
が見えて
新たな表現
が舌先に集まってきます

ブッククラブに参加するには?

・毎回参加者のうち二人が一冊ずつ本を選び、参加者のみなさんはできるだけ事前にその本を読みます。(短編が多くて、図書館から借りたり、本屋さんやネットで買ったりすることができます)
・当日はその本に対する感想、疑問などを多様な観点を持つ参加者と共有し、より深くまで議論できます。このブッククラブでは一つだけの「正しい読み方」を探るのではなく、「参加者のみなさん一人ひとりがどう読んだのか」ということが大切です。
・事前に本が読めなくても参加することが可能ですが、自分なりにその本に向き合ってみるとより積極的に参加できると思います。
・当日進行とその後の記録になるレポートも交代しながら進めていきます!

2018年9月20日木曜日

メンバーズ(vol.3)

本誌掲載内容から、Who's Whoをご紹介します。今回のメンバーは12名。
それぞれ、「眠り」「ゆめ」から連想する本、映画などを挙げてもらいました。

◆石井優貴(いしいゆうき)
寝ながら諸々について考えこむ癖が抜けず不眠症なのですが、睡眠導入剤代わりに聴く音楽のうちで一番効くのがアルノルト・シェーンベルクの弦楽四重奏曲第3番です。音型を一つずつ拾っていくと曲が次第に解体されていき、思考が溶けます。

◆s.s.g.(えすえすじー)
Twitter:@ph010_
作品を書いた時の自分とは今では全くちがう気分で、日記をクローゼットにしまった女の子は、今頃何をしているだろう、もう少し彼女と交換日記を続けたいと思いながら、夏の厳しさや、アイスクリームの甘さを味わっています。
 *Deerhunter『Helicopter』
 *Air『Virgin Suicides』
 *Department of Eagles『Noam Chomsky Spring Break 2002』

◆ermhoi(えるむほい)
Twitter:@Dooonermhoi
ermhoiという名前は、3分で決めたのですが、最後の「ほい」という音が相手の緊張を緩める効果があるみたいなので気に入っています。音楽が好きです。
私は本をあまり読みませんが、夢野久作のドグラ・マグラは読めました。ああいう細密な事実と謎と伏線が広がっていくのような夢を見て、私は天才なんだって興奮して目を覚ます、そんな日が来たらいいなと思っています。

◆片貝未来央(かたがいみきお)
しばしば人は眠るために本を読みます。現実が悪夢のようになってしまっているいま、私たちは目を開けたまま夢を見るために本を読むのかも知れません。
 *ガブリエル・ガルシア=マルケス「眠れる美女の飛行」(『十二の遍歴の物語』より)

◆工藤順(くどうなお)
Web:https://junkdough.wordpress.com
眠りとは、ある種の避難所(シェルター)のようなものと考えてこの特集を始めたのですが、続々集まる原稿を見て再考を迫られました。むしろ眠りは死と分かち難いものであり、またあまりに憎いものでもあり得る……。ひとが一人に還る場所、だからこそわたしと世界との、あるいはわたしとわたしとの関係があまりに露わになるのかもしれません。
 *ゲンナージイ・アイギ「いまではいつも雪が」(『アイギ詩集』より)

◆倉畑雄太(くらはたゆうた)
‪何もしないで過ごす時間が、夢のような時間になってしまったことを悲しく思う。東京でぼーっと過ごした夏休みが終わり、切実にそう感じた。夜のぬるっとした街の光、明け方の青みがかった空、この映画で描かれるすべてが懐かしく、愛おしかった。‬
 *三宅唱(監督)『きみの鳥はうたえる』

◆Copal Ildeaux(こぱるいるどー)
Instagram:@copal.ildeaux
この夏にシベリア鉄道でロシアを縦断しました。総距離九二五八キロ、六日間の旅のお供は『罪と罰』。物語の中で、人はよく悪夢にうなされ、妄想の虜となります。この本を読んでいると、同じ車両に乗り合わせたロシア人の老若男女と仲良くなれました。
一〇歳くらいの女の子が紙面に印刷された「人間」という文字を指さし、「なにこれー、変な形!」というような反応をしました。
 *ドストエフスキー『罪と罰』

◆砂漠で生きる(さばくでいきる)
Twitter:@mstkaqrg
最近は宇宙ユーチューバーとして活動しています。宇宙ユーチューバーとは、宇宙のユーチューバーのことです。宇宙とつながっていればチャンネル登録できます。よろしくお願いします。夜空を見上げると気持ちいいよね。
 *『2001年宇宙の旅』(映画)

◆つぐみ
幼い頃にみた無数の甘い夢を糧に、今ここを過ごしているグラフィックデザイナーです。
夢から連想する本は、ヘッセの『デミアン』です。幼い頃に抱く明と暗、2つの夢。夢(青春)の世界では正義が霞みます。ゆえに、覚めた時の束の間の美しさは、いくつになっても色褪せないなあと。そんなことを考えながら懐かしい夢を今日もまた求めてしまいます。

◆nemunemuおばけ(ねむねむおばけ)
一人っ子で育ちました。恋人と話しているとき、弟がいたらこんな感じかな、と思う瞬間が度々あり、姉になりたかった自分、という思いもよらぬアイデンティティーの発見に至りました。そんな作り話です。
 *吉本ばなな『白河夜船』
 *Victor Erice『lifeline』(短編映画)

◆藤澤大智(ふじさわだいち)
良心の声にそのまま耳を傾けようとする者は、自分の身近や内面の事柄については沈黙できなければならない(アルトゥーロ・グラフ)。
 *山本直樹『ラジオの仏 山本の夢辞書1975-2004』

◆藤田瑞都(ふじたみさと)
眠りに落ちる以前の世界と目覚めて以後の世界は、地続きなのでしょうか? 私たちは、眠るたび何を忘却しているのでしょうか。眠りとめざめのあいだで、私は何者なのでしょうか。不眠は、再びめざめることへの、生への不信感から生じるのでしょうか。……
眠ることは、世界の秘密です。
 *日渡早紀『ぼくの地球を守って』:高校生六人が、眠りの中で前世を体験します。眠りという仮死状態で前世を生きる彼らの時間は、「未来へ還っていく」。それは、どういうことなのでしょうか……? 不思議な眠りの世界を冒険したい人へ。

2018年9月16日日曜日

コンテンツ(vol.3)

「ゆめみるけんり vol.3」の目次です。

『ゆめみるけんり』vol.3
◆特集:睡眠主義
・ermhoi「Dream Land/Beautiful」
・nemunemuおばけ「おばけのねむねむうさぎ」
・エレーナ・グロー/工藤順「めろち」
・ウィルフレッド・オーウェン/石井優貴「戦争詩集より」
・藤澤大智「眠りへの祈り——イタリア詩アンソロジー」
・片貝未来央「誕生日」
・アンドレイ・プラトーノフ/工藤杳「『ポトゥダニ川』より」
・s.s.g.「Diary in her closet.」
・倉畑雄太「出発」

◆書店コラム:水中書店さん

◆特集2:わたしたちの集住(シノイキスモス)
・「公共の場でベンチに座ることについての宣言」
・Copal Ildeaux「香港集住探訪記」
・砂漠で生きる「ブループリント・プロジェクト」

◆連載
フェルナンド・ペソア/ふじたみさと・ふじたなお「アナーキスト・バンカー(上)」
ニコライ・フョードロフ/工藤順「著作者の義務と、博物館・図書館の権利」(2)

表紙:つぐみ
写真:s.s.g.+藤田瑞都
DTP:國見哲人+工藤順
ロゴデザイン:Copal Ildeaux

+++
Table of contents for yumemirukenri vol.3. The issue is: Sleepism.

yumemirukenri vol.3
◆Issue: Sleepism
- ermhoi "Dream Land/Beautiful"
- nemunemu obake "Sleepy Rabbit Ghost"
- Elena Guro/Nao Kudo "Melochi"
- Wilfred Owen/Yuki Ishii "From the War Poems"
- Daichi Fujisawa "Invocazione al Sonno/Invocation to Sleep"
- Mikiho Katagai "Birthdays"
- Andrei Platonov/Nao Kudo "From 'Potudan River'"
- s.s.g. "Diary in her closet."
- Yuta Kurahata "Departure"

◆Book Store Column: Suichu Shoten (Mitaka, Tokyo)

◆Special: Our Synoecism/συνοικισμóς
A manifesto about sitting on a bench in a public space
Copal Ildeaux "Hong Kong, Synoikismos Visiting Record"
sabaku de ikiru "Blue Print Project"

◆Serials
Fernando Pessoa/Misato e Nao Fujita "O Banqueiro Anarquista -1-"
Nikolai Fyodorov/Nao Kudo "Author’s Responsibility and the Right of Library as Museum -2-"

Cover designed by Tsugumi
Photography by s.s.g. + Misato Fujita
DTP by Tetsuto Kunimi + Nao Kudo
Emblem designed by: Copal Ildeaux

2018年7月22日日曜日

【イベントレポート】Language Beyond(第4回)

杉並区善福寺のスペース「あなたの公-差-転」でブッククラブ「Language Beyond」を隔月開催しています。

第四回は6月24日に開催し、以下の2篇をめぐっておしゃべりしました。

・グギ・ワ・ジオンゴ 『泣くな、わが子よ』(宮本正興訳、第三書館、2012年)
・大城立裕(おおしろたつひろ)「カクテル・パーティー」(岩波現代文庫など、2011年)

レポートはこちらです。
http://kosaten.org/ja/language-beyond-4report/


◆第五回は、8月11日(土)に行う予定です。参加をお待ちしています!
16:30スタート、参加費は無料です。
読む本は以下の2冊です:
・ソル・フアナ『知への賛歌—修道女フアナの手紙』(光文社古典新訳文庫)
・アンドレイ・プラトーノフ「不死」(オリジナル翻訳)

◆プラトーノフの翻訳は、期間限定でここからダウンロードすることができます。
https://drive.google.com/file/d/1iLrv5X5xmf8H8-MYdQ7mPD0RfwhYG6Z-/view?usp=sharing

このブッククラブでは一つだけの「正しい読み方」を探るのではなく、「参加者のみなさん一人ひとりがどう読んだのか」ということを大切にしています。

*あなたの公-差-転:http://kosaten.org/



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“Language Beyond”とは?

相手のことばをどうやって理解したらよいでしょうか?自分のことばではない表現をどうやって味わったらよいでしょうか?本のページに固定された文字から、漣のように広がる声、身体に溢れているボディランゲージ、それぞれの記号があり、様々なシグナルが飛んでいますが、その海の中どんどんその本質から離れてしまうという感覚も強いかもしれません。一方、無数のサインに囲まれると無限な意味も読み取れ、ひとつの解釈や視野が絶対足りない世界に生きているということを改めて実感できます。

一言に「ことば(language)」といってもその種類はさまざまです。わたしの身体を取り巻く無数のサイン。そこには無限の意味を読み取ることができ、「ことば」を捉えるにはひとつの解釈・ひとつの視野だけで足りません。一方「ことば」の海のなかで、私たちは時に心のなかに抱えた「この感じ」を言い表すためのことばを見失ってしまうことはないでしょうか。

向こうにある言語。まだ手が届かないところにある言葉。今まで出会っていない、わからない表現だけど、探ってみれば自分の言葉とつながるかもしれません。

世界中のことば
ことばの奥深くにある世界
を通して
相手と自分
の間の
ズレ

見つめて
縮小し、拡大し、
新たな見方
が見えて
新たな表現
が舌先に集まってきます

ブッククラブに参加するには?

・毎回参加者のうち二人が一冊ずつ本を選び、参加者のみなさんはできるだけ事前にその本を読みます。(短編が多くて、図書館から借りたり、本屋さんやネットで買ったりすることができます)
・当日はその本に対する感想、疑問などを多様な観点を持つ参加者と共有し、より深くまで議論できます。このブッククラブでは一つだけの「正しい読み方」を探るのではなく、「参加者のみなさん一人ひとりがどう読んだのか」ということが大切です。
・事前に本が読めなくても参加することが可能ですが、自分なりにその本に向き合ってみるとより積極的に参加できると思います。
・当日進行とその後の記録になるレポートも交代しながら進めていきます!

2018年5月11日金曜日

「ゆめみるけんり」正誤表

「ゆめみるけんり」の正誤表です。
誤りが見つかり次第、この記事を更新していきます。

vol.1

・pp.81-82:ペソア「船乗り」中で「*以下、ペソアの詩。」とある部分は、澤田直さんによる翻訳(『ペソア詩集』澤田直訳編、思潮社、2008、p.12)の引用であることを明記していませんでした。直前の「わたしたちが経験しなかったことについて語る」という箇所に関連する詩として紹介する意図で併記しましたが、誤解を招いたと思います。澤田直さんの一愛読者として、お詫び申し上げます。(藤田瑞都)

vol.2

・p.51:誤「パーシャ[フロレンスキー]の」→正「ぼくらの」
(参照した版の誤植を見過ごしていました。改めて底本としたФлоренский П.А. Сочинения в 4-х томах. М.:Мысль, 1994-1999. Т.4を確認したところ、当該箇所は паши→нашиでした。:工藤杳)

2018年2月26日月曜日

【イベントレポート】Language Beyond(第2回)

杉並区善福寺のスペース「あなたの公-差-転」でブッククラブ「Language Beyond」を隔月開催しています。

第二回は2月4日に開催し、以下の2冊(3篇)をめぐっておしゃべりしました。

・プーシキン『ボリス・ゴドゥノフ』
・コルタサル「悪魔の涎」「南部高速道路」

レポートはこちらです。
http://kosaten.org/ja/lbreport2/


◆第三回は、4月22日(日)に行う予定です。
16:30スタート、参加費は無料です。
今回読む本は:
+宇野千代『おはん』(新潮文庫・中公文庫)
+石牟礼道子『あやとりの記』(福音館文庫)
以上2冊です。

このブッククラブでは一つだけの「正しい読み方」を探るのではなく、「参加者のみなさん一人ひとりがどう読んだのか」ということを大切にしています。
詳しくはこちらから↓
http://kosaten.org/ja/event/language-beyond3/
https://www.facebook.com/events/700803603642422/

*あなたの公-差-転:http://kosaten.org/

新しく参加してくださる方をお待ちしています。


2018年2月12日月曜日

【終了】Book Loversに出展します

【終了しました】

東京・初台のMOTOYA Book Café Galleryで開かれる、“本好きの人が、本好きの人のために作るブックイベント”「Book Lovers」に、ゆめみるけんりが出展します。
「ゆめみるけんり vol.2」を展示し、vol.1とvol.2を販売します(少部数の予定)。




Book Lovers

2018年3月7日(水)~4月1日(日) ※月曜・火曜 お休み
13:00~20:00 ※入場は閉館の30分前まで

※3/17(土)、3/18(日)は17時から
※最終日は17時まで
※ドリンクのオーダーをお願いします。

詳細→http://www.mo-to-ya.com/gallery/exhibition/1803.html


アクセス→http://www.mo-to-ya.com/access/
初台駅(京王新線)から徒歩8分
代々木八幡駅(小田急線)・代々木公園駅(千代田線)から徒歩10分

「ゆめみるけんり」vol.2

表紙デザイン:つぐみ
Cover designed by Tsugumi

「ゆめみるけんり」vol.2(2018年1月発売)
特集「わたしと、はたらくこと」

コンテンツ:今号の目次。
メンバーズ:今号に参加した人たち。

・電子書籍版:Kindle Storeにて販売中です。300円。電子書籍版限定コンテンツもあります。
・紙版:2018年1月刊行。1000円。いくつかの書店で扱っていただいています。
取り扱い書店さんにつきましては【入手方法】のページをご覧ください。

Our zine "yumemirukenri 02" is now on sale. The issue is: I, Working.
E-book can be purchased on Amazon's Kindle Store for approx. $3.00.
Also, printed ver. is available. See the page "How to purchase?" .


〈vol.2によせて〉

「だって会社はどうするの?」――ランボー(堀口大學訳)
“Et mon bureau?” ― A. Rimbaud

 「わたしと、はたらくこと」と題する特集をお送りします。「はたらくこと」はわたしたちが過ごす一日の大半を占めています。「はたらくこと」は、なにも会社に行って仕事をすることだけを指すのではない。鷲田清一『だれのための仕事』を読んで眼を開かされた思いをしたのは、いわゆる「家事」も仕事には違いない(しかもかなりきつい仕事である)という視点があったからです。zineづくりという“仕事”も、はたらくことには違いないし、目的をもって歩くことさえ、はたらくことと言えなくもありません。こんなわけで、「はたらくこと」に対する考え方、定義、その範囲は、それぞれの人によって大きく異なることでしょう。

 一方で、「はたらくこと」から漏れていくもの、逃げていくものとしては、「あそび」「暇」という言葉が指し示すものがあるでしょう。あるいは、「眠り」などと、ひとは言うかもしれません。それぞれの「はたらく」が明らかになっていくことは、それぞれの「あそび」や「暇」が浮き彫りになることです。「はたらく」がこんなにも多様である以上、「あそび」も今ここで定義づけることは不可能です。今号の特集から、「はたらくこと」、そしてその裏側としての「あそび」に対する考え方の多様さを感じてほしいと思います。

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Let us present you a brand new issue of yumemirukenri, which is entitled “I, working.” “Work” holds the largest part of our everyday life. When we talk about working, it is not just about your job at office. I’ve read Kiyokazu Washida’s essay “Work For Whom?” with fresh surprise, because in his work Washida points out that so-called housekeeping also is, nothing but a kind of work (or even a harder one). “Making zine” also must be considered as a work. Even “walking” (towards somewhere) may be considered, to some extent, as working. It can be said that every one of us holds different ideas or definitions of “work,” and the scope of the word differs from one person to another.

On the other hand, there is something that leaks out, escapes from the word “work” — something that can be described with words “play” or “leisure.” Or some may say “sleep” instead. When one’s definition of “work” has been made clear, at the very same time, his/her idea about “play” or “leisure” gets unveiled. Since “work” is such a diverse concept to define, same can be said to “play.” We wish you can feel the diversity of ideas on “work” and “play” through this booklet.

(工藤/NK)

2018年2月11日日曜日

zineってなんだ

ヴァージニア・ウルフの『自分ひとりの部屋』(片山亜紀訳、平凡社)を読んで、「これはzineだ」と思いました。

「ゆめみるけんり」を出すにあたって同人誌と言うのがなんだかダサいので、格好つけてzineと呼んでみたのですが、それでは「zineってなに?」と聞かれると、自分がなに一つわかっていないということが明らかになってしまいます。zineってなんでしょう。

自分で「ゆめみるけんり」というzineをスタートさせる前後に、数冊のzineとの出会いがありました。その中でも愛おしく感じているものが、中里仁美さんの発行するzine『善き門外漢』です。「パーソナルかつエモーショナル」を掲げるこの小さな本は、コンテンツも読ませるもの揃いで、いろいろな人に読んでもらいたいなあと思うのですが、中里さんの考え方に共感できるところが多かったので、その辺についてすこし書きたいと思います。

「パーソナルかつエモーショナル」ということ。

英語で「Have your say.(ご意見募集)」という言い方がありますが、出版社を通じて本を出すことには、「I have my say.」というニュアンスを感じます。日本語では「世に問う」とよく言いますが、そんな感じも込みで。「言いたいこと」が確固としてあり、それを著者である「おれ」の責任のもとで世に出すという感じがします。

そうして広く世に問われた本には並ならぬ覚悟があり、ゆえに読み応えのあるものになります。そういう出版物に価値を感じることは当然のことですが、ただ、それだけじゃないだろうとは思います。

「言いたいこと」になりきらない「感じ」とか、「空気」とか、「変」とか、「愛」とか。それは、わたしの考えでは、ひじょうに個人的なものだし、感覚的なものです。社会生活のなかでは、そうした個人的な感覚の行き場所はなかなかありません。zineは、そうした「個人的かつ感覚(感情)的」=「パーソナルかつエモーショナル」なものの受け皿としてあるのではなかったでしょうか。

「でも、SNSやwebメディアがzineの役割を果たし得るんじゃないですか?」わたしはそうは思いません。というのは、自分でつくってみて感じたことですが、zineを印刷し、出版することには、SNSにはない重みと時差があるからです。SNSでは思いついたことをすぐに全世界にむけて発表することができます(その自覚があるかないかはわかりません)。しかしzineをつくるには、企画し、原稿を集め、判型を決め、デザインを決め、お金をかけて印刷をし、書店に持って行き……というさまざまな大変さがついてきます。出版社から出版するほどの覚悟はいりませんが、自分の出版するものに何万かのお金を費やすとき、また書店に持ち込みをするときに、「おまえはそれをするだけの覚悟があるのか?」「それに見合うだけの中身があるのか?」という声を内側で聞きます。また、こうしたプロセスを経ることで、zineの出版にはかならず時差が生じます。すこしずつ遅れて届くということです。これは、即(時)レス(ポンス)を求められることの多くなったいま、zineをつくることで気づくことができた、大切にしたい時間の流れ方です。

『善き門外漢』がすごいのは、たった一人のひとの「パーソナルかつエモーショナル」なものを表現する、それだけでもう(現在のところ)3冊も本を出してしまえるのだ、という事実ではないでしょうか。もちろん中里さんという個人のおもしろさ、ふかさも大きく関係しているのですが、ここには大きな勇気をもらいます。ほんとうは人はこんなに言いたいこと(でもふだんは「感じ」に留まっているようなこと)がたくさんあり、もしかしたら誰だって本の一冊や二冊出せるくらいのなにか、「感じ」を抱えているのかもしれません。

ウルフは頭のいい女性ですから、『自分ひとりの部屋』を書いても(悪い意味で言われる)「感情的」にはなりませんでしたが、それでもやはりこの本はとても個人的な感覚から成り立っているようにおもいます。そして(すぐれた訳文も手伝って)そうした感覚の表出(それは「論」とか「言明」未満です)は、とても心地よく、それでいて強く、こころに染み込むように馴染むもので、「なんて魅力的な文章なんだろう」と、読んでいる最中に何度も感嘆してしまいました。これもやはり、1929年当時のzineなのだとわたしは感じました。

それから昨日コ本やさんでおしゃべりをしながら気づいたのですが、zineを出すということは、たぶんそのzineを買ってくれる人もいるということです。一般に出版社から出されている本であれば、手にとって購入し読む契機・要因ってとてもたくさんあると思います。新聞広告を読んだ、人から聞いた、twitterでみた、著者の名前を知っていた、、、。一方でzineとの出会いは、おそらく書店店頭で起こるのがほとんどではないでしょうか。zineを手に取り購入する行為は、ほとんど読者個人の興味と関心にのみ裏打ちされています。一冊のzineを介して、宣伝に踊らされる以前の生身の人間と人間がコミュニケートすることになる。そうわたしは思いました。デリダを引き合いに出すまでもなく、ひとが「語る」ためには、絶対に「2人以上必要」なのです。

そんなわけでzineというメディアには、なかなか真顔で真剣に語り合えないわたしたちが、個人的で感覚的なものを通してコミュニケートする一つの「場」であるとも言えるかもしれません。

大学を卒業して以来、「ここではない場所」「仕事と家のあいだの場所」ということを個人的に考え続けているのですが、zineがひとつの回答になるかもしれない、実際にどこかの住所に場所をもつということにこだわらなくてもいいのかもしれない、と考えました。

そういう話でした。

*ヴァージニア・ウルフ『自分ひとりの部屋』:http://www.heibonsha.co.jp/book/b201163.html
*『善き門外漢』:http://yokimongaikan.com
*ジャック・デリダ『名を救う』:http://www.miraisha.co.jp/np/isbn/9784624932534

(工藤杳)

2018年2月10日土曜日

値段をつけるということ

値段をつけるということについて、工藤がツイートしたことから再構成してみます。

価格を設定するという仕事は勉強になります。

「ゆめみるけんり」は、最初300円〜のカンパ制(文フリなど)、その後500円(書店さん扱い時)になり、第二版では800円の値段をつけました。節操がない、一貫性がないと言われればそうなのですが、今の価格で原価ギリギリくらいで、そのまえは売れるたびに赤字でした。今買うひとと昔買ってくれた人とのあいだに差ができてしまうことについては申し訳なくおもいます。

それぞれの時点で、それなりに考えていたことがあります。カンパ制にしてた頃ははじめてでしたし、自信が全くなかったのでいくらくらいなら買ってくれるのかという実験も兼ねてカンパ制という形にしました。意外と買ってくれる人がいたこと、それから書店さんに適正な価格をつけるようアドバイスをもらったことなどを受けて、当時の我々としては思い切って500円で書店で扱ってもらいました。

今回800円という価格を設定したのは、普通に原価分はかかっているわけだからそのくらいは請求する正当な“けんり”があると、ごく当たり前のことを考えたからです。(それでもプラマイほぼゼロです。だって利益出るとめんどくさいので。)

(それで、今のところメンバーから3千円ずつ集めて出版費用としています。これ以上負担額は上げたくないとは思っていますが、まあ飲み会一回分と考えれば……となんとか納得してもらえるとはおもいますが。)

書店さんにも励ましてもらい、またvol.1の売り上げもそこそこあって自信も出てきたというのもひじょうに大きいです。扱ってくださる書店さんや、買ってくれるみなさま、本当にありがとうございます。

値段をつけることを通して、いままで実感が持てなかった「資本主義」というものとじかに触れ合っているような感覚があります。

(工藤杳)

2018年2月9日金曜日

今回、文フリには出店しません

5月の文学フリマには「ゆめみるけんり」としては出店しないことにしようと思っています。

すでに一回出店できて結構満足しているのが理由の一つですが、もう一つ理由があって、それは文フリという会場が大きすぎると感じたことです。

詩という表現形式はとても声がちいさいものだと思います。翻訳詩を中心にした「ゆめみるけんり」もまた、例外ではありません。

私たちのzineと読者/潜在的読者の理想的な出会い方を考えると、もうすこし小さな、例えば書店さんとか、リトルプレスのフェアなんかがいいのかなと現時点では考えています。そういった場所では、zineを介してわたしたちゆめみるけんりと読者とのあいだに個人的で親密な関係が結べるかもしれないと思ったからです。
できれば事前情報なく出会って「しまって」、買って「しまって」ほしい……というのは欲張りすぎでしょうか。

またもう一つ理由を挙げるとすると、文フリで販売すると利益がゆめみるけんりの内部にしか還元されないことがあります。それよりは、書店さんなどいろいろなところを巻き込んで販売という実験をできないかなと思っています。未熟者の私たちにとって、販売は実験なのです。せっかく出版文化に一口噛むのならば、多少なりともわたしたちの外にも利益を生み出せればそれ以上のことはないのではないでしょうか。

こんなことを考えています。
他の場所への出展情報などは、追って告知します。

(工藤杳)